引越しの箱







一人暮らしを始めた部屋はまだダンボールがちらほらと残っていた。
一つ、何を入れたかわからないダンボールがあった。
多分、ゲームとか本だろうと中を開けると、子供の頃のおもちゃが出てきた。


あぁ。間違えて持ってきちゃった。


そんな事を思いながら、中身を探った。
フィギュアとか、ぬいぐるみとか、ボールとか、いろいろ懐かしいものが顔を見せた。


「あ、懐かしい」


その中で一際、思い入れのある物を見つけた。
子供の頃は腕いっぱいになるほど大きかった絵本だ。
絵本は女の子が読むような王子様とお姫様の話。確か姉から奪ったものだった。


「あん時、姉ちゃん凄っげぇ泣いてたなぁ」

今から思えば残酷な事だ、なんて思いながら、絵本の表紙をゆっくり開いた。




むかし、むかし、あるところに花の似合う美しいお姫様がいました

お姫様は森の魔女の孫である少女のたった一人の友人でした

ある日、孫はいいます。

「お姫様、逃げてください。御婆ちゃんはあなたに呪いをかける気なのよ」

お姫様は驚きました。

そしてお姫様は魔女から逃げるため、国を出て、川を渡り、小さな村へ行きました




子供のころ、呼んだ記憶のあるその物語。
唐突に進む物語をゆっくり逃さず目に焼くように読んだ。




小さな村のパン屋で働く事になったお姫様

パン屋の主人は意地悪で、お姫様を毎日いじめるのです

お姫様はそれでも頑張って働きます

そんなある日、青年にお姫様は恋をしてしまったのです

青年もまた、お姫様に恋をしてしまいます

しかし、それをうとましく思ったパン屋の主人は魔女に告げ口をするのです

「うちにあなたがお探しのお姫様が逃げてきました」

魔女は急いで村へ行って、お姫様を見つけます

「これがあの姫だって?嘘をつくんじゃない」

お姫様を見た魔女はパン屋に怒鳴りつけました

パン屋にこき使われたお姫様は泥だらけで、魔女の目にはあのお姫様だなんて思えなかったのです

怒った魔女はパン屋を殺してしまいます

人を殺した魔女は神様の罰を受け、森の奥の泉に一生閉じ込められてしまいました

こうして、お城に戻ったお姫様は青年と結婚し、友人たちと幸せに暮らしました




今、読めば面白くもなんとも無いストーリー。
何をあんなに欲しがったのかがわからない。こんな本なら姉から奪う必要もなかったのではないかと思う。

「何してんの」

「あ、何か懐かしいのが出てきたから」

胡坐をかいて絵本を読んでいた俺に手伝いに来ていた聖が訊いた
応えた俺に呆れつつ隣に座り絵本を覗く。

「見たことねぇ本」

「うん。かなりマイナーな絵本だよ」

「絵本までオタクかよ」

「えーひどくね?」


俺の膝から絵本を持ち上げ、ペラペラと読んでいく聖の横顔を見つめている
なんだか、本当に、のろけかもしれないけど男前だ。
どう云えばいいのだろう・・・本当に男前としか云えない。


「それさ、子供ん時、姉ちゃんから無理やり貰った本なんだよなぁ」

「最悪だなお前」

「うん俺もそう思う。でも何でそんなの欲しがったんだろ」

「あれじゃね?この青年が俺に似てるからじゃね?」


目の周りの笑い皺を出し、聖は言った。
すっごい自意識過剰。と言いつつ、絵本の中の青年を覗く

凛々しく、逞しく書かれた青年は何所か聖に似ていた。


「残念。青年の方が男前でした」

「はぁ?シメるぞてめぇ」


覆いかぶさってきた聖を受け止めながら中学生みたいにキャーキャー言い合う。


「ちょっ本当、こしょばいっ」

「似合いだろ?俺たち」

「は?急に何?」

「だってこのお姫様、お前に似てる」


突然云われた言葉に頬が赤くなるのがわかった。
得意気な聖は俺の上に乗ったまま。



引越しの片付けはまだ終わらない。











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絵本のくだりが長かったですね。
漫才みてるせいか何かテンションおかしいです